荷主交渉コンサルティング
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富士運輸株式会社
2017.02.20
橋本:船井財団主催「グレートカンパニーアワード 2015」においてユニークビジネスモデル賞を受賞された富士運輸株式会社 松岡弘晃社長にお話しを伺います。受賞後、社内の様子に変化はありましたか?
松岡社長:はい。今まで賞をいただくようなことがない会社でしたので(笑)従業員も皆、喜んでくれました。
橋本:こういった受賞は初めてでいらっしゃいますか? それは意外です。
松岡社長:トラックの購入台数などで感謝状をいただいたくことはあっても、こういったかたちでの表彰は初めてです。今回、従業員とお客様への感謝の意味を込めて、各地でお礼パーティーを3回、開かせていただきました。今回の受賞について、不思議に思うお客様もいたようです。どのように面白いのか、何がユニークなのかという問い合わせをいくつかいただきました。中には「どんなことでこの賞をもらったのか、何をしているのか、具体的に教えてほしい」といって来られる大手運送事業者さんなどもおられましたね。あとは、やはりいろいろなメディアに掲載されたことで入社希望者が増えて、今、面接の数もかなり多いです。
橋本:富士運輸さんのユニークなところはたくさんありますが、一番は、やはり車両の管理のうまさではないかと思います。通常なら、お客様の仕事にあわせて車を作って、それごとに車の仕様を変えて要望どおりに作っていくわけですけど、富士運輸さんはいろいろなニーズに対応できる車をメーカーと一緒に開発して、それを大量発注することによってコストを抑えています。さらにその整備力を上げることによって、良い状態で、早い段階で売っていくと。セールバリューも考えながら車を買っていくという、かなり面白いモデルですね。
松岡社長:そうですね。私は元々、三菱ふそうで働いていました。そこでまず一番感じたのが、日本のトラックの車種の多さです。なぜこれだけ車種が多いかというと、高度経済成長の時に、メーカーはさまざまな運送会社、荷主、倉庫会社の要望に応えて多くの車種を作りました。それは床が高いとか、タイヤが小さいとか、タイヤの数が多いとか、もうキリがないくらいの多さです。ひとつのメーカーでも何百、ともすれば何千という車種があります。そんなにも、なぜ必要なのかとずっと思っていました。
実際にトラックを使って商売する側になったときに、父は大手運送会社の下請けをずっとやっていたんですけど、やはり仕事がなくなったり、「おたくのトラックはいらないよ」と言われたり、そのトラックが使い物にならなくなるということを、私は専務時代に経験しました。このままお客様が喜ぶトラックを作り続けても、結局はそのお客様に「必要ない」と言われたら、もう終わりなんです。そこで、複数社のお客様の荷物が詰める車を作ろうと、約10年前からそういった車の発注に切り替えていきました。単純な話なんですけど、そこになかなか気づかなかったんです。
橋本:なるほど。
松岡社長:どのメーカーもマルチの対応ができる車というのは発売していません。ですからメーカーさんと相談して、また、トラックの上に載っているボディーメーカーとも相談しながら、さまざまなお客様の要望に沿うマルチの車をどんどん作りました。
とはいうものの、やはり運んでいくらという運送会社ですので、仕事がなければ従業員に満足な給料は払えません。けれどマルチの車だったら仕事が途切れることがなくなるので、そこから会社の業績もどんどん良くなってきました。
しかし、マルチの車は値段が高い。それと、かなり多くの機能をつけないとマルチ管理ができない。そんなこともあって、1台、2台の発注ではコストが下がらないんです。だから初めてスーパーマルチという車を発注するときに、大型車を100台発注しました。100台というと総額で19億とかになるんですけど、とにかくここで発注していかないと今後の波動に耐えられないなと、そう思い切って決断したのが、ちょうどリーマンショックの時です。
橋本:そうでしたか。 整備力の強化については、その当初から戦略的にされていたんでしょうか。
松岡社長:そうですね。私も1年間ですがトラックの整備をやっていましたので、これからは整備を自社化しないと、日本のトラックメーカーやディーラーの持つ整備工場の整備士が不足する、整備能力が衰えて修理ができない、そんなことになるのでは? と予想していました。 トラックの整備というのは職人さんが多くて、職人さんの勘といいますか、トラックのエンジンの音で何が悪いとか、そうして判断されていたんですけど、もうそんな職人さんがどんどんいなくなると。じゃあこれ10年後には、必ずトラックの整備は困るだろうなと思って、全て自社化しようとしたのが整備工場を作るスタートでした。
では実際はどうなっているかというと、今、日本のトラックリーダーの整備工場に修理に持っていっても3~4日、もしくは1週間放置されるということが起こってきています。
橋本:もうひとつ、本当にユニークだなと思うのは、トラックをダメになるまで使って廃車にするのではなく、リセールバリューを考えて、売ること前提に買って回されているじゃないですか。こういう発想って、他にはないなと思うんです。
松岡社長:トラックや設備を買うときに、3年後、5年後、10年後に、例えば会社の業績が悪くなって、この機械を手放さなければいけないというシーンで、本当に高く売れるものなのか、鉄くずになってしまうのか、そういったところまで考えて投資している経営者は、意外と少ないんですよね。
皆さん目先の仕事や、荷物を運ぶためにとトラックを買って使う。ところが、お客様から要らないとか言われたときに、またはその法律が変わったときに、規制が変わったときに、この車では使えないということが実際に起こっています。ですから先の事を予測して、5年後10年後に高く売れる、そんな車を作れば、まあ一つの投資にもなりますよね。
私の個人的な考えになりますけど、オートマチックのトラックは買わない、できるだけ環境対策ができている車にする、できるだけたくさんの容積が積める車にする、こういったことです。具体的に言えば、オートマチックの車はディーラーやメーカーじゃないと修理ができないんです。もう囲い込みされてるわけなんです。だからまず買わないというのと、環境対策がしっかりできている、例えばドライバーさんが仕事をしやすい、オートエアコンが付いている、仮眠ベッドが広いとか、働く人のためのことを考えて作っている車というのは、やはり中古車市場でもとても人気があるんです。
橋本:環境対策は、やはり「自動車NOx・PM法」とかで、そのエリアが広がってきたときに使えないエリアが増えてきたら困るからという部分もあってということですね。
松岡社長:それもありますね。労働環境と、やはり国内の環境ですよね。あとは、できるだけたくさんの荷物が積めるトラックを買うということがポイントです。1回あたりに運ぶ量が多いほどお客様も喜ばれますよね。ところが運送会社っていうのは、たくさんのトラックを使ってほしいから、1回で大量に運べるトラックを買いたがらないんですよね。
橋本:あぁ、なるほど。
松岡社長:ですから一般的な車しか買わない。そこで私どもはとにかく1回で大量に運べる、箱が大きいトラックを買う。そうすることによって、3年後、5年後、売却しようといったときに高く売れるということです。
橋本:松岡社長は将来的なリスクなどを、わりと前倒しで考えていらっしゃるんですか?
松岡社長:そうですね。とにかく厳しい状態から経営始めましたので、例えば営業所を作ったときに、閉鎖するときどうなるんだろうとか。厳しくなったときに、いかにその変化に対応できるかを考えて、リセールバリューが高くなる車を必然的に選んでますね。
橋本:19億円なんていったらすごい投資ですし、もうガンガン行くわ!というイメージがあるんですが、リスクヘッジの視点ももちろんしっかり考えていらっしゃるということですよね。
松岡社長:これはまぁ交渉次第ですけど、トラックは大量に買った方が逆にリスクがない、ということもありますしね。