荷主交渉コンサルティング
2024年問題を乗り越える、運賃改定・条件改善の具体的手法として、荷主企業との交渉をサポート
くわしく見る
株式会社篠崎運送倉庫
2008.02.07
業務の拡大を目指す中、創業時からうちの会社を支えてくれたベテラン社員達が定年を迎えるようになり、「高卒採用」を真剣に 考えるようになりました。なぜ「高卒」なのかと言うと、この業界はとにかく「現場主義」ですから、スタートが早いほうが良いからです。うちの役職者も、み な倉庫や配送の現場からのたたき上げです。
中途の募集もしているのですが、なかなか若い人が集まらない。せっかくならば、自分が引退した後も会社で働いていてくれる若い人に夢を託したい、それなら やはり高卒、と思ったのです。はじめからターゲットは「東北」と考えていました。幹部5名のうち2名が東北出身で、粘り強い頑張り屋が多いという良いイメージがあったことが理由のひとつです。
でも、直接のきっかけは、NHKの「ワーキングプア」という特集番組を見たことです。ワーキングプアとは、働いているのに生活保護水準以下の暮らししかで きない人のことを指します。3世代5家族で合計年収が300万などというケースを見て、「なんでそんなに仕事がないの?」「関東は人が足りないのに!」とショックを受けました。
そして、「こういう東北の人たちを何とか助けてあげることはできないのか?そうだ!うちで採用させてもらおう!」と思い立ったのです。そこで、橋本さんに 採用のコンサルティングをお願いしました。私は元々橋本ファンです。橋本さんはとにかく“熱い”ですし、ものの考え方が多面的で的確です。苦楽を共にして くれ、何かにぶつかった時も適切なアドバイスをしてくださいます。
東北と言っても広いですから、どこを攻めるのが良いかとご相談したところ、「調べてみます!」と即答。すぐに「東北で一番、就職率が低く、困っているのが青森です。」というお答えをいただきました。そこで、迷うことなく青森をメインターゲットに決めました。
採用の考え方から社内体制、渉外、面接、教育に至るまでの60ページに及ぶマニュアルを作っていただき、その内容に沿ってプロジェクトを進めていきまし た。「会社をアピールするのは、通常の営業でも学校訪問でも同じですよ」というアドバイスに「確かにそうだな」と納得し、営業担当の柳原が適任だと思い、 東北での採用に取り組んでもらうことにしました。
偏差値が高すぎず低すぎず、就職と進学が半々くらいのところを中心に約70校をピックアップしていただき、車で青森に出向い てほぼすべてを実際に回りました。はじめての取り組みなので、何事も新鮮で「苦労した」という感覚はありません。むしろ、新たなチャレンジにワクワクして いました。学校は事前に電話をすればアポが取れる確率が高いので、普段の営業よりむしろ楽しいと思ったくらいです。
進学校に行った時は「何しに来たんですか?」的な応対をされてしまったりしたこともありましたが、それも「経験」と前向きに捉えることができました。しか し、1校に対して県外企業から800社以上もの求人が来ているという事実は想定外でした。しかも、1校にプレゼンできる時間は5~10分くらいに限られて います。事前にプレゼンのトレーニングを行い、いかに先生を味方につけるかということに工夫をこらしました。
まず、初回訪問の際、現地の風土や就職難という実態を肌で感じ取ってきた私、何とか東北の子供達に夢を持たせたいと考えている篠崎社長、そんな熱い想いに 共感してくださっている橋本さんと協議を重ねました。結果、会社よりも「物流業」という一般になじみのない業界を知っていただき、興味を持っていただく、 ということに注力したのです。
ただ話をするだけではなく、採用用の会社案内や小冊子、DVDといったツールを用意し渡すようにしました。他社が持ってくるのは営業用の会社案内なので、 こうしたツールだけでも差別化になりました。さらに、会社案内のポスターも用意して、ダメもとで進路掲示板に貼らせてもらう交渉をすると「そんなこと言う会社は、はじめてですよ」とビックリされたりもしました。
また、訪問の際は、「他社さんはどんな感じですか?」とズバリ聞いてみることにしていました。すると、他社は「即戦力」を求めているところがほとんどであ ることがわかるのです。つまり「作業マン」を求めているところが多いのです。そこでうちは即戦力を求めずに、現場から丁寧に育てていくこと、生徒さんの将 来をしっかり考えていることをアピールしました。
「みんなで分かち合う経営」が弊社の理念なのですが、社員と苦楽を共にするというこの発想が、先生や親御さんに共鳴していただけたように思います。単に進 学率とか、大企業への就職云々ということではなく、真剣に生徒さんの将来を考えていらっしゃる先生は、経営理念にとても共感して頂き、熱心に聞いてくださ います。
興味を持ってくださった方には、社長がいかに熱い男かということをアピールしました。2回目の訪問の際は社長も一緒に学校周りをしたのですが、「え?社長が直々に?」と、先生にはそれだけでもインパクトが大きかったようです。
こうした活動が功を奏して、埼玉もあわせると13名の応募があり、保護者の方と一緒に職場見学会に来ていただくことができました。
職場見学会では、実際の現場をそれぞれの実務担当者から案内してもらいました。8月、記録的な猛暑の中での見学会で、倉庫は 40度を越えていたのですが、各部署の部長や主任が、暑さを感じさせず、誇りと自信を持って熱心に説明してくれたことが参加者に好感を持たれたようです。
仕事中にも関わらず、今何をやっているのか、どういう意味があるのかを、わかりやすく教えていました。保護者の方からも、社員の対応が良かったと褒められました。
新卒を採用するにあたって、人事システムや賃金制度をより公平感のあるものに見直しを図り、それに伴って給与の低かった人が底上げされたのですが、それによって社員が新卒採用にプラスイメージを持てたことも成功要因のひとつかもしれません。
こちらから説明するだけでなく、生徒のほうからいろいろと質問してもらう時間も設けました。とはいっても、自分からはなかなか質問ができないでしょうか ら、こちらから「給料はいくら位か気にならない?」とか「寮ってどんなところか知りたくない?」と話しを促してあげて、それに応えるような形式にしまし た。
特に保護者の方が気になさるのは「衣・食・住」ですよね。本音では、子供を遠くに行かせたくない思いがあるでしょうから、寮やコンビニなどの周囲の環境も 含めて、安心していただける情報をなるべく事前に提供しました。中には「もっと都会かと思ったら意外と青森と変わらないですね」というご意見もありました (笑)。
この見学会で「みんなで分かち合う経営」が実感できたというお声もいただき、結果、11名の内定が決まりました。
11月、12月に青森と埼玉でそれぞれ内定式を行ったのですが、18歳はもっと大人なのかなと思っていたのですが、話してみると意外に子供です。育てる責任、彼らの人生に対する責任をこれまで以上に強く感じました。
先代の社長もよく言っていたのですが、人生において、会社に来ている時間が一番長いものです。その時間を充実させてあげなければならない。つまらないとこ ろに一生勤めるなんてあまりにも可哀想です。新卒で、若くて、他の会社を知らないなら尚更です。定年を迎えた時に後悔しない会社を作っていきたいと、これ まで以上に強く思いました。
彼らが入社したら、まず幹部社員による10日間の研修プログラムを受けてもらった上で、1週間ごとにすべての現場・倉庫を回ってもらいます。20歳になるまではトラックには乗せません。そして5月から配属し、7月に最後の仕上げとして私と一緒に全員で富士山に登ろうと思っています。連帯感・達成感が味わえ て、一生の思い出になりますよね。今から楽しみにしています。
これをきっかけに、中途社員にも研修をしていきたいと考えています。実務ではなく、会長から直接「みんなで分かち合う経営」という理念について語ってもらおうと思っています。企業の不祥事が続く中、創業者が直接会社の歴史を語ることは非常に重要だと思っています。
これまでは人員に余裕がなく、まとまった人数での研修を実施することは難しかったのですが、11名が入社すれば、なんとか現場からも人が出せますので、是非実施したいと思います。
また、今回新卒採用をするにあたり、人事システムを見直しました。今までは中途採用メインであった為、場当たり的な対応が多くバラつきがありましたが、給 与テーブルを透明化し、全従業員の見直しをした結果、給与の上がった従業員もおり、公平感のある仕組みができたと考えております。
新卒採用を通じて、社内の意識や、仕組みが変わり、さらに会社全体が活性化しつつあるように思います。今後も定年者が毎年出ますので、今年の実績を活かしながら、採用に力を入れていきたいと思います。